児童養護施設で働いていた頃、12月になると事務所に段ボール箱がいくつも届きました。
差出人には、地元の商店や、名前を聞いたことのある企業が並んでいました。
子どもたちは箱の中身より先に「今年も来たね」と言います。
毎年届くこと自体が、うれしかったのだと思います。
はじめまして、フリーライターの森本千尋です。
社会福祉士として児童養護施設に11年勤め、いまは社会的養護や寄付をテーマに取材と執筆をしています。
この記事で考えたいのは、「美容の会社がなぜ子どもを支えるのか」という点です。
エステと子ども支援は、一見つながりが薄く見えます。
ただ、施設の内側にいた立場から見ると、美容の仕事と子どもの暮らしには重なる部分が意外とあります。
施設で暮らす子どもたちの現状、企業が社会貢献に取り組む理由、30年以上支援を続けているエステ企業の例を順に見ていきます。
最後に、個人や小さなサロンでもできる関わり方をまとめました。
Contents
児童養護施設で暮らす子どもたちのいま
こども家庭庁の資料「社会的養育の推進に向けて」(令和8年3月)によると、児童養護施設は全国に607か所あります。
令和7年3月末時点で、21,472人の子どもがそこで暮らしています。
どんな子どもが入所しているのかは、同じくこども家庭庁の児童養護施設入所児童等調査の結果(令和5年2月1日現在)で確認できます。
主な数字を抜き出すと、次のとおりです。
- 虐待を受けた経験がある子は71.7%(前回調査は65.6%)
- 入所したときの平均年齢は6.7歳
- 施設で暮らす期間は平均5.2年
- 両親またはどちらかの親がいる子は95.4%
「親のいない子が暮らす場所」というイメージを持つ方は少なくありません。
実際には、親はいても一緒に暮らせない事情を抱えた子がほとんどです。
小学校に上がる前に入所して、中学生、高校生になるまで施設で過ごす子もいます。
その数年間の暮らしぶりが、その子の子ども時代そのものになります。
施設を出たあとの差
施設の子どもが高校を卒業したあとの進路は、全国平均と比べるとはっきり違います。
令和5年度末に高校などを卒業した子の進路は、次のようになっています。
| 進路 | 児童養護施設の子 | 全高卒者 |
|---|---|---|
| 大学など | 24.2% | 57.9% |
| 専修学校など | 17.2% | 19.4% |
| 就職 | 48.7% | 15.0% |
大学などへの進学率は少しずつ上がってきました。
それでも全国平均との差は2倍以上あります。
多くの子は18歳で施設を出て、親に頼らずに暮らしを始めます。
在籍中の支援だけでなく、施設を出たあとまで見すえた支援が必要とされているのはこのためです。
企業が社会貢献に取り組む理由
企業はどんな理由で社会貢献に取り組むのでしょうか。
経団連が2025年1月に公表した社会貢献活動に関するアンケート結果を見ると、その考え方がわかります。
回答した153社が挙げた理由の上位は、次のとおりです(複数回答)。
- 社会の一員としての責任(94%)
- 持続可能な社会の実現(92%)
- 社員が社会課題に触れて成長する機会(77%)
- 社員のモチベーション向上や帰属意識の強化(74%)
重点的に取り組む分野では、「次世代育成」が69%で2番目に多くなっていました。
もう一つ目を引いたのが、本業との関係です。
「本業に関連の深い分野」への取り組み度は5段階で平均4.34でした。
「本業では直接解決が難しい分野」の3.89より高く、自社の仕事に近いテーマほど熱心に取り組む傾向がうかがえます。
美容業界にも、子ども支援を長く続けている会社があります。
資生堂は1972年に財団を設立し、現在の公益財団法人資生堂子ども財団として、社会的養護のもとで暮らす子どもの自立を支えてきました。
児童福祉施設の職員を海外研修に送り出す事業には、これまでに750名あまりが参加しています。
ポーラの公式noteでは、北九州市のポーラショップが児童養護施設で美容ボランティアを行っている例が紹介されています。
大きな財団でなくても、一つの店舗の技術が支援になりうる例です。
たかの友梨ビューティクリニックが続けてきた子ども支援
エステ業界で子ども支援を長く続けている例として、たかの友梨ビューティクリニック(株式会社不二ビューティ)の取り組みを見ていきます。
1989年から続く「鐘の鳴る丘 少年の家」との関わり
群馬県前橋市にある児童養護施設「鐘の鳴る丘 少年の家」への支援は、同社の発表によると1989年から続いています。
公式サイトの活動報告や施設側の沿革から、主な出来事を整理しました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 1989年 | 「鐘の鳴る丘 少年の家」への支援を開始 |
| 1999年〜 | 夏に子どもたちを東京ディズニーランドへ招待(毎年) |
| 2007年10月 | 「たかの友梨レインボーハウス」設置(施設側の沿革に記載) |
| 2009年 | 屋内体育館施設「レインボーガーデン」「レインボーフィールド」を寄贈 |
| 2020年〜 | 対面が難しい時期は、食事やプレゼントを贈るホームパーティの形で継続 |
| 2025年12月 | 6年ぶりに対面で交流。スタッフ8名が41名の子どもにプレゼントとケーキを届ける |
ディズニーランドへの招待の日、子どもたちは朝5時半に起きて大型バスで出発するそうです。
私のいた施設でも、年に一度の遠出の朝は、起こさなくても子どもたちが先に起きていました。
寄贈した体育館施設の名前には、「雨が降った後の虹のように、必ず報われるものだという思い」が込められていると同社は説明しています。
支援の背景にある生い立ち
創業者のたかの友梨さんは、2022年11月にフジテレビ系「ボクらの時代」に出演し、自身が養子だったことを語っています(デイリースポーツの報道より)。
戸籍謄本を見て知り、育ててくれた母への感謝から「恩返ししたい」と思うようになったそうです。
公式サイトのコラムでは、子ども支援への思いを次のように書いています。
私も幼少期に、不遇な環境で育ちながらも人の助けに支えられた思い出があります。
エステの世界で会社を大きくした人が、自分の子ども時代と重ねて施設を支え続けてきた、という流れが見えてきます。
たかの友梨さんの経歴や、子供たちを支える施設の後援会長といった肩書きは、Wikipediaにもまとまっています。
エステティシャンにとっての意味
この支援は、会社から寄付を送るだけにとどまりません。
クリスマス会の準備や遠足の付き添いには、同社のスタッフが参加してきました。
たかの友梨さんはコラムで、スタッフに「人の痛みのわかるエステティシャンになってもらいたい」と書いています。
施設の子どもたちと接することで、エステティシャンが思いやりを大切にするようになっている、とも述べています。
同社の会社概要には「エステティック代金の一部を社会貢献活動に役立てています」とあります。
お客様が支払った施術代の一部が、施設の子どもたちの行事やプレゼントにつながっている、ということです。
元施設職員から見た「美容の会社が支える」ことの意味
ここからは、施設で働いていた立場から、美容の会社が子どもを支えることの意味を考えてみます。
自分で選ぶ、自分を整える経験
先ほどの入所児童等調査には、中学3年生以上の子どもに日常の経験をたずねた項目があります。
「自分の気に入った洋服や持ち物を選んで買ったこと」がある子は91.9%で、質問項目の中でいちばん高い割合でした。
施設の暮らしは集団生活です。
食事の時間も、お風呂の順番も、ある程度決まっています。
その中で、自分で選んだ服を着る、髪を整えるといった経験は、「自分は自分でいていい」という感覚を育ててくれます。
同じ調査では、女子の「将来なりたい職業」の3位が「美容師・理容師」(6.7%)でした。
美容は、施設の女の子たちにとって憧れの仕事の一つです。
美容のプロが施設を訪れることには、物を届ける以上の意味があります。
身近な大人のなかに「こういう仕事がある」と見せてくれる人がいること自体が、子どもにとって財産になります。
同じ顔ぶれが毎年来ることの価値
施設の子どもたちは、人との別れを何度も経験しています。
職員の異動や退職もあり、大人が入れ替わることには敏感です。
だからこそ、毎年同じ時期に、同じ会社の人たちが来てくれることには大きな意味があります。
冒頭で書いた「今年も来たね」という言葉は、その安心感から出てくるものでした。
1回きりの大きな寄付より、小さくても長く続く関わりのほうが、子どもの記憶に残ることは多いです。
30年以上同じ施設を支えている例が貴重なのは、この点です。
ありがたい支援と、困ってしまう支援
一方で、善意がそのまま施設の助けになるとは限りません。
埼玉県の「児童福祉施設への寄付について」には、寄付をする前に知っておきたい点がまとめられています。
- 寄付したいときは、施設に直接相談する
- 使い古しの衣服など、子どもの尊厳を傷つける物品は遠慮してほしい
- 雛人形などの思い出の品は、受け取れない場合がある
私がいた施設でも、事前の連絡なしに大量の食品が届き、賞味期限内に食べきれなかったことがありました。
人数分そろっていない品物は、子ども同士のけんかの種にもなります。
企業の支援が長続きするのは、施設と相談しながら「いま必要なもの」を一緒に考えているからだと思います。
個人や小さなサロンでもできる関わり方
大きな会社でなくても、子どもたちを支える方法はあります。
美容の仕事をしている方、エステに通っている方が始めやすいものを挙げます。
- 近くの施設に電話で連絡し、必要な物や関わり方を聞いてみる
- 社会福祉法人への寄付は、国税庁の案内(タックスアンサーNo.1150)にあるとおり、寄附金控除の対象になりうるので、寄付先の法人の種類を確認しておく
- ハンドケアやメイク講座など、自分の技術を生かせるボランティアを施設に提案してみる
- 施設を出たあとの若者を支える団体に寄付をする
- 社会貢献に取り組むサロンや企業のサービスを選ぶ
とくに技術を生かしたボランティアは、美容の仕事ならではの関わり方です。
ただ、肌に触れる施術やメイクは、アレルギーへの配慮や保護者の同意が必要になることもあります。
まずは施設の職員に相談し、無理のない形から始めるのがおすすめです。
まとめ
児童養護施設で暮らす子どもは全国に約2万人いて、その多くが親と一緒に暮らせない事情を抱えています。
18歳で施設を出たあとも、進学や生活の面で全国平均との差が残っています。
企業の社会貢献は「社会の一員としての責任」から始まり、本業に近い分野ほど力が入る傾向があります。
美容の会社にとっての本業は、人が自分を大切に思えるように手を貸す仕事です。
そう考えると、エステ企業が子どもを支えることは、本業の延長線上にあります。
たかの友梨ビューティクリニックの例は、1つの施設との関係を30年以上続けてきた点に価値があります。
同じ人たちが毎年顔を見せてくれることが、施設の子どもにはどれだけ心強いか、私は現場で見てきました。
支援は、大きな金額でなくてもかまいません。
近くの施設に電話を1本かけるところからでも、十分に始められます。
最終更新日 2026年9月29日 by weetso









