「うちの職人たちの腕は、どこにも負けんよ」

そう語る社長の目は、誇りに満ちています。
しかしその一方で、ふと漏れるのです。

「でも、なぜか現場は楽にならないし、若い子もなかなか育ってくれなくてね…」

この言葉に、胸が締め付けられるような思いがした工務店の経営者や現場監督の方も、少なくないのではないでしょうか。

はじめまして。
株式会社BuildSync代表の杉原 悠真(すぎはら ゆうま)と申します。

私自身、兵庫の工務店の三代目として生まれ、父の背中を見て育ちました。
父の技術は本物でした。
ですが、会社は倒産しました。
原因は「技術は一流でも、デジタル化に遅れた」ことでした。

その悔しさをバネに、私は現場の職人さんたちが、もっと楽に、もっと誇りを持って働ける未来を作るため、建設テックの会社を立ち上げました。

この記事は、難しい専門用語を並べるためのものではありません。
かつての私の父のように、日々現場で奮闘されているあなたが、「これならウチでも明日から試せるかも」と感じられる、ごく小さなテクノロジー活用のヒントをお伝えするために書きました。

遠い未来の話ではなく、あなたの会社の「今」を変える、小さな一歩を一緒に見つけましょう。

なぜ今、小さな工務店にこそ「テクノロジー」という名の新しい道具が必要なのか?

「ITとかDXとか言われても、うちはパソコンに詳しい人間もいないし、大手さんの話だろう?」

そう思われる気持ち、痛いほどよく分かります。
ですが、今やテクノロジーは、会社を成長させる「攻め」の道具であると同時に、あなたの大切な会社と職人さんたちを「守る」ための、いわば建物の基礎工事のようなものになっているのです。

人手不足と高齢化の波は、もう待ってくれない

少し、厳しいデータをお見せします。
日本の建設業就業者数は、1997年のピーク時から約3割も減少しています。
さらに、今現場を支えている職人さんのうち、4人に1人は60歳以上というデータもあります。

昔ながらの「気合と根性」や「見て覚えろ」というやり方だけでは、この大きな波を乗り越えるのは、残念ながら非常に困難です。
熟練の職人さんが引退していくスピードに、若手の育成が全く追いついていない。
これが、多くの工務店が直面している偽らざる現実ではないでしょうか。

父の会社が教えてくれた「技術だけでは守れないもの」

私の父の工務店も、腕のいい職人さんばかりでした。
しかし、情報のやり取りは電話かFAX。
図面はすべて紙で、見積もりや請求書は社長である父の頭の中にしか入っていない、という状態でした。

結果として何が起きたか。
小さな連絡ミスで手戻りが発生し、工期が遅れる。
急な仕様変更の情報が、現場の末端まで伝わらない。
そして、父が体調を崩した時、会社の業務が完全にストップしてしまいました。

技術があっても、それを支える仕組みが古ければ、会社という建物はあっけなく崩れてしまう。
私は父の背中から、その現実を学びました。

テクノロジーは、決して現場の仕事を冷たく、無機質なものにするわけではありません。
むしろ、職人さんが本来の「腕を振るう仕事」に集中できるように、面倒な雑務や伝達ミスといった“見えない敵”から現場を守るための防具なのです。

大手だけのものではない!「小回り」が効く工務店こそチャンス

実は、テクノロジーの導入は、巨大な組織である大手ゼネコンよりも、社長と現場の距離が近い中小工務店の方が、ずっと早く、そして効果的に進められる可能性があります。

大企業がひとつのシステムを導入するには、何百、何千人もの承認が必要で、何年もかかることがあります。

しかし、あなたの会社ならどうでしょう?
「社長、このアプリ、次の現場で試してみませんか?」
その一言で、明日から新しい挑戦が始められます。

この「小回りの良さ」と「意思決定の速さ」こそ、中小工務店が持つ最大の武器なのです。

難しくない!高くない!明日から現場で使える「3つの小さな武器」

「理屈は分かった。でも、具体的に何をすればいいんだ?」

そうですよね。
ご安心ください。
いきなり何百万円もするような複雑なシステムを導入する必要は全くありません。
まずは、あなたのポケットに入っている「スマートフォン一つ」から始められる、月々数千円から試せるような、小さな武器をご紹介します。

武器1:情報共有のムダをなくす「コミュニケーションツール」

現場で一番多いトラブルは、やはり「言った・言わない」問題ではないでしょうか。
朝礼で伝えたはずの指示が、夕方には違う形で伝わっている。
そんな経験、誰しもあるはずです。

  • 具体例: LINE WORKS、KANNA など

これらは、普段お使いのLINEとほとんど同じ感覚で使える、ビジネス版のチャットツールです。
現場ごと、職人さんごとにグループを作って、写真や図面をポンと送るだけ。

これだけで、電話やFAXの時間が劇的に減り、「あの件、どうなった?」という確認の手間がなくなります。
現場の写真も自動で整理されるので、事務所に戻ってから夜な夜な写真整理をする、なんていう時間からも解放されます。

武器2:書類仕事から解放される「業務効率化ツール」

日報、報告書、請求書…。
現場から事務所に戻ってきてからの書類仕事に、うんざりしていませんか?
その時間が残業の原因になり、職人さんの貴重なプライベートを奪っています。

  • 具体例: ANDPAD、ダンドリワーク など

これらのアプリを使えば、スマホで出退勤の時間を打刻したり、簡単な日報をその場で作成したりできます。
「あの現場の請求書、出したっけ?」なんていう不安も、アプリが管理してくれれば、請求漏れのリスクも減らせます。

まずは「勤怠管理だけ」「日報だけ」というように、一番面倒だと感じている業務を一つだけアプリに任せてみる。
それだけで、経営者であるあなたの肩の荷も、少し軽くなるはずです。

武器3:安全と品質を見える化する「現場管理ツール」

安全管理や品質の確認は、現場の生命線です。
しかし、屋根の上や足場の高所など、危険な場所の確認はいつもヒヤヒヤしますよね。
また、若手に技術を教えたいけれど、つきっきりで見る時間がない、という悩みもあるでしょう。

  • 具体例: ドローンによる現場空撮、ウェアラブルカメラによる遠隔臨場

「ドローンなんて、うちには無理だよ」
そう思わないでください。
今は、数万円で買える小型のドローンもありますし、屋根の点検だけを数万円で請け負ってくれる専門業者もいます。

ドローンで撮った上空からの写真は、施主様への進捗報告に使えば、言葉で説明するよりもずっと喜ばれ、信頼度が格段にアップします。

また、若い職人さんのヘルメットに小さなカメラをつければ、事務所にいながら「そこはこうやるんだ」とリアルタイムで指示が出せます。
これは、熟練の技術を安全に、そして効率的に次世代へ継承するための新しい方法なのです。

失敗しないための「足場固め」。テクノロジー導入、3つの心得

ここまで具体的なツールを紹介してきましたが、最も大切なのは「どのツールを使うか」ではありません。
「どうやって現場に根付かせるか」です。

実は、私自身、創業当初に大きな失敗をしました。
「このシステムさえ入れれば、現場は劇的に変わるはずだ!」と信じ、高機能なツールをある工務店に導入したのです。
しかし、結果は惨憺たるものでした。

「操作が難しくて、逆に仕事が増えた」
「現場が混乱するだけだ」

そうした声が噴出し、3社連続で契約を解除されてしまいました。
私は頭を抱え、気づいたのです。
「現場はデータじゃなく、人で動いている」と。

その苦い経験から学んだ、導入を成功させるための3つの心得をお伝えします。

心得1:ヒーローは「ツール」ではなく「現場の職人」

私たちはつい、新しいツールを導入すること自体が目的になってしまいがちです。
しかし、本当に大切なのは「そのツールによって、現場で働く職人さんが楽になるか、誇りを持てるか」という一点に尽きます。

導入する前に、ぜひ現場の声を聞いてください。
「一番面倒な作業はなんですか?」
「何に一番時間を使っていますか?」

その答えの中にこそ、導入すべきテクノロジーのヒントが隠されています。
主役はあくまで、毎日汗を流してくれている職人さんたちです。

心得2:「全部」ではなく「一つだけ」から試してみる

新しいことを始めるとき、つい「あれもこれも」と完璧を目指したくなります。
しかし、それは失敗のもとです。

まずは、たった一つの現場、たった一つの業務からで構いません。
「次のA邸の新築現場で、写真共有だけアプリでやってみよう」
「一番パソコンが苦手なBさんに、まずは使ってもらって意見を聞こう」

そんな「スモールスタート」が、結果的に一番の近道になります。
小さな成功体験を一つずつ積み重ねていくことが、現場全体の協力と信頼を生むのです。

心得3:困った時の「相談相手」を見つけておく

一人で悩まないでください。
今は、中小企業のIT導入を支援するための様々な制度があります。
例えば「IT導入補助金」のような制度を使えば、ツールの導入費用の半分以上が補助されるケースも少なくありません。

地域の商工会議所や、私たちのような建設業専門のIT支援会社、そして建設業界に特化したサービスを展開するブラニュー(BRANU)社のようなパートナーを頼ることをためらわないでください。
餅は餅屋です。
あなたは現場のプロ、私たちはITのプロ。
お互いの力を合わせれば、きっと良い道が見つかるはずです。

まとめ

今日の話を、もう一度振り返ってみましょう。

  1. 人手不足の時代、技術だけでは会社を守れない。小さな工務店にこそテクノロジーという新しい道具が必要。
  2. まずはスマホ一つで始められる。「コミュニケーション」「業務効率化」「現場管理」の3つの小さな武器から試してみる。
  3. 失敗しない秘訣は「職人が主役」と考え、「一つだけ」試してみて、「相談相手」を見つけること。

この記事を読んで、「よし、何かやってみよう」と思っていただけたなら、これ以上嬉しいことはありません。

テクノロジーは、現場の“手のぬくもり”や“職人の誇り”を奪うものではありません。
むしろ、それらを守り抜き、未来の世代へと確かに引き継いでいくための、現代における最強の道具なのだと、私は信じています。

さあ、何から始めましょうか?
難しく考える必要はありません。

まずは、あなたの会社で一番長く働いてくれているベテランの職人さんに、こう聞いてみるのはどうでしょう。

「いつも、ありがとう。ところで今、現場で一番面倒なことって、なんですか?」

その会話こそが、あなたの会社の未来を創る、最も価値のある小さな一歩になるはずです。

最終更新日 2025年11月12日 by weetso