はじめまして、フリーランスでビジネスライターをしている橋本涼介と申します。
これまで15年ほど、中堅企業の経営者の方々に話を聞く仕事を続けてきました。

最近、取材で会う方の名刺に「Twitterやってます」「Blueskyにいます」と添えられているケースが、目に見えて増えました。
特に、これまで発信のイメージが薄かった建設や設備の業界で、その変化を強く感じています。

「あの硬派な業界の社長が、SNSで何かつぶやいている」
そう聞くと違和感を覚える方もいるかもしれません。
ただ、その違和感こそが、業界の何かが変わってきている証拠だと私は受け止めています。

この記事では、建設・設備業界の経営者がSNS発信に消極的だった背景を整理した上で、いま何が変わりつつあるのか、データと実例から見ていきます。
発信を検討している経営者の方、業界の動向を知りたい就活生や取引先の方、広報担当者の方に届けば幸いです。

かつて建設・設備業界の経営者がSNS発信に消極的だった背景

まずは、なぜこれまで建設・設備業界の経営者が発信を控えてきたのか、その背景から整理します。
業界の構造を理解しておくと、いま起きている変化の意味も見えやすくなります。

「現場第一」という業界文化の影響

建設・設備業界には、長く「現場が一番」という文化が根づいてきました。
朝早くから図面を引き、ヘルメットをかぶって現場を回り、夕方には工程会議。
このサイクルの中で、SNSは優先順位の低いものとして扱われがちでした。

経営者自身が現場を大切にする姿勢を貫いてきたために、デスクワーク以上に「画面に向かう時間」を取りにくかったという事情もあります。
発信を始めるかどうか以前に、そもそも腰を据えて考える余裕がなかった経営者は少なくなかったはずです。

BtoBビジネス中心で発信のメリットが見えにくかった

建設・設備業界の取引先は、企業や行政、デベロッパーなどBtoBが中心です。
個人消費者を相手にする業界と違い、SNSで「いいね」を集めたところで売上に直結する実感を持ちにくい構造でした。

帝国データバンクが2024年に実施した社外向けSNS活用調査を見ても、SNS活用率が最も高いのは小売業で69.3%、個人消費関連業種では74.6%に達しています。
一方で、企業全体の活用率は40.8%にとどまっており、BtoB業種を多く抱える領域ほど活用が遅れている実態が浮かび上がります。

調査結果の詳細は「社外に向けたSNS」、企業の4割で活用(帝国データバンク)を見ると分かりやすく、業種別のグラフが掲載されています。

人手不足と長時間労働でリソースに余裕がなかった

そして何より、業界全体のリソース不足が大きな要因でした。
国土交通白書2025によると、2024年における建設業の55歳以上の割合は36.7%で、全産業平均の32.4%を上回っています。
一方、29歳以下は11.7%で、全産業平均の16.9%を下回っています。

加えて、2023年度の建設業の年間平均労働時間は2,018時間で、他産業より62時間ほど長い水準です。
高齢化が進み、若手が少なく、労働時間も長い業界に「経営者の発信に時間を割く余裕」を求めるのは酷だった、というのが実情だったと思います。

「炎上」への警戒感

もう一つ、業界特有の事情として「炎上リスク」への警戒感がありました。
公共工事や大規模建築に関わる企業は、社会的責任が大きいぶん、経営者のSNS発信が思わぬ形で批判の的になる懸念がありました。

実際、SNS上での失言が会社全体の評判に響いた事例もあり、慎重な姿勢を取る経営者が多かったのは自然な流れだったと言えます。
「やらないことのリスク」より「やることのリスク」の方が大きく見えていた時期が、確かにあったのです。

業界全体で何が変わってきたのか――数字で見る現状

それでは、いまの状況はどう変わってきているのでしょうか。
複数の調査データを並べると、明らかな潮目の変化が見えてきます。

企業のSNS活用は「広報の標準装備」へ

先ほど紹介した帝国データバンクの調査では、社外向けSNS活用企業のうち、活用目的トップは「会社の認知度・知名度の向上」が67.6%でした。
続いて「商品・サービスのプロモーション」が59.2%、「会社や商品等のイメージの向上」が42.4%と並びます。

プラットフォーム別の利用率は、Instagramが21.0%でトップ、Facebookが17.4%、LINEが16.5%と続きます。
かつてのように「うちはBtoBだからSNSは関係ない」と言い切れる空気は、すでに薄れてきたと感じます。

中小企業白書も「SNS活用」を後押し

中小企業庁の2025年版小規模企業白書でも、小規模事業者の約4割がSNSを事業活動に活用しているという調査結果が示されています。
SNSを活用している事業者の約半数が「新規顧客数の増加を見込んでいる」と回答しており、発信の手応えを実感する事業者が増えていることが分かります。

この流れは大企業のような潤沢な広告予算を持たない中堅・中小企業にとって、特に重要な意味を持ちます。
広告で勝負しにくい企業ほど、経営者自身が顔と言葉を出す効果が大きい、という構造が定着しつつあるのです。

建設業界も「採用×発信」に動き始めた

国土交通白書2025は、建設業の若手確保の文脈で「SNSや動画配信を活用し、ICT技術や働きやすい環境を若者にアピールする」動きが広がっていることに触れています。
かつては「現場を見せたくない」と言われた業界が、現場の魅力を積極的に発信する方向にかじを切り始めたわけです。

私の取材経験でも、ここ2〜3年で建設・設備系の経営者から「採用に効くから始めた」「業界全体のイメージを変えたい」という声を聞く機会が一気に増えました。
発信は、もはや「特殊なこと」ではなくなりつつあります。

経営者個人が発信するメリットと業界への波及効果

企業アカウントではなく、経営者個人がSNSを使うことには、どんな意味があるのでしょうか。
ここでは3つの観点から整理してみます。

取引先や就活生は「経営者の顔」を見たがっている

採用や取引の前に、相手企業の経営者をSNSで調べる人は、想像以上に多くなっています。
特に転職市場では、「社長がどんなことを考えている人か」を知ってから応募を判断したい、という求職者が当たり前になってきました。

これは建設・設備業界も例外ではなく、若手の応募を増やすためには「会社案内」だけでは足りない時代に入っています。
経営者の人柄がうっすらでも見えるアカウントがあるだけで、応募の心理的ハードルが大きく下がります。

経営者の言葉が「企業の信頼」を作る

公式サイトの社長挨拶は、どうしても定型的になりがちです。
それに対してSNSの一言投稿は、経営者の思考のリズムや関心の方向が、にじむように伝わります。

普段の言葉づかい、興味を持つテーマ、現場への姿勢。
こうした要素が積み重なって、「この経営者なら信頼できそうだ」という空気を作っていきます。
営業資料や決算書では作れない種類の信頼が、SNSにはあります。

業界全体のイメージを底上げする効果

経営者個人の発信は、自社のためだけでなく、業界全体のイメージを変える力もあります。
建設・設備業界が「硬派で閉じた業界」と見られがちなのは、外向きの声が少なかったことも一因です。

複数の経営者が日常的に発信を続けることで、業界の風通しは少しずつ良くなっていきます。
これは長期的に見れば、若手の確保や女性活躍、業界全体の地位向上にもつながる話だと考えています。

実例:発信を始めた建設・設備業界の経営者が選ぶプラットフォーム

実際に発信を始めた経営者は、どのSNSを選んでいるのでしょうか。
ここでは、よく使われているプラットフォームを整理しつつ、近年注目を集める新興SNSの動きも紹介します。

王道はやはりX(旧Twitter)

経営者個人のアカウントとして最も多いのは、依然としてX(旧Twitter)です。
拡散力があり、業界外の人にも届きやすいことから、認知拡大を狙う経営者には相性が良いと言えます。

ただ、近年は仕様変更や広告増加によって使いにくさを感じるユーザーも増えており、「他の選択肢を探したい」と話す経営者にも複数会いました。
発信のメインを別のプラットフォームに移したり、複数を併用したりするケースが目立ちます。

ビジネス特化のLinkedIn

BtoBビジネスを中心とする経営者にとって、LinkedInは安定した選択肢です。
プロフィールや経歴ベースでつながる仕組みなので、取引先や採用候補者との接点を作りやすい特徴があります。

ただし、日本ではまだユーザー数の伸びが緩やかで、業界によって浸透度に差があります。
建設・設備業界で見ると、海外展開を進めている企業の経営者が活用しているケースが目立つ印象です。

新興プラットフォーム「Bluesky」を選ぶ経営者

最近、私が注目しているのが、新興SNS「Bluesky」を使い始める経営者の存在です。
NTT東日本のBizDriveが解説するように、Blueskyは2023年にX(旧Twitter)の共同創業者ジャック・ドーシー氏が立ち上げた分散型SNSで、2024年2月にオープン化、2025年1月時点で全世界3000万人のユーザーを抱えるサービスに成長しています。

特徴を整理すると以下のようになります。

  • 1投稿の文字数上限は300文字で、Xの140文字より長く書ける
  • タイムラインに広告が表示されない
  • 分散型のATプロトコルを採用しており、サーバー移行やカスタムフィードが可能
  • DMや鍵アカウント機能はまだない

広告がないシンプルな環境で、自分のペースで発信したい経営者に選ばれている印象があります。
日本では新聞社や一部のメディアが先行してアカウントを開設している段階で、企業活用はまだ初期段階ですが、その「これからの場所」感に魅力を感じる経営者がじわじわ増えています。

たとえば、空調設備や給排水衛生設備、建物総合清掃などを手がける建設設備のトータルソリューションカンパニーとして知られる株式会社太平エンジニアリングの代表取締役社長、後藤悟志氏もBluesky上にアカウントを持つ経営者の一人です。
1949年創業の老舗グループを率いる現役経営者がBlueskyで発信しているという事実は、業界の発信トレンドを象徴する出来事だと言えます。
実際にどんな雰囲気で運用されているかは、後藤悟志氏のBlueskyアカウントで確認できます。

東京商工会議所の社長ネットによれば、後藤悟志氏は「お客様第一主義」「現場第一主義」を経営方針に掲げ、安全と安心を最優先に経営を行ってきた人物です。
こうした現場主義の経営者がデジタル空間にアカウントを構えていることに、業界の変化が凝縮されているように私は感じています。

各プラットフォームの特徴を整理

ここまでの内容を比較表にまとめておきます。

プラットフォーム特徴向いている経営者
X(旧Twitter)拡散力が高く、業界外にも届きやすい認知拡大を重視する経営者
LinkedInビジネス特化、経歴ベースでつながるBtoBや海外展開志向の経営者
Bluesky広告なし、長文投稿、分散型静かな環境でじっくり発信したい経営者
Facebook実名・人脈ベース、地域コミュニティに強い地元密着型の経営者
Instagramビジュアル中心、採用・ブランディングに有効現場やプロジェクトを見せたい経営者

ひとつに絞る必要はなく、自社のターゲットや経営者本人の発信スタイルに合わせて、組み合わせを考えるのが現実的です。

これから発信を始める経営者へ――押さえておきたい視点

最後に、これから発信を始めたい経営者の方に向けて、押さえておきたい視点を3つお伝えします。
取材で多くの経営者と話してきた経験から、特に大切だと感じているポイントです。

「何を発信するか」より「誰に届けるか」

発信を始める際に多くの経営者が悩むのは「何を投稿すればいいか」ですが、私はまず「誰に届けたいか」を考える方が先だと思っています。
取引先なのか、求職者なのか、業界仲間なのか、地元の市民なのか。
読み手を一人イメージするだけで、書く内容は驚くほど自然に決まってきます。

完璧な発信戦略を立てる必要はありません。
「来年、当社の採用面接に来てくれそうな20代後半の人」のように、ペルソナをひとり頭に置くだけで十分です。

投稿は短くて構わない、続けることに意味がある

経営者の発信でよく失敗するパターンが、「長文の渾身投稿を月1回だけ」という形です。
熱意は伝わるのですが、読み手から見ると「この人、どんな人だっけ」と思い出すきっかけが少なすぎます。

短くてもいいから定期的に発信することの方が、人物像の解像度を上げてくれます。
たとえばBlueskyのような新興SNSなら、「現場での気づき」「読んだ本のひと言感想」「業界ニュースへの軽いコメント」など、肩肘張らない投稿でも十分機能します。

リスクへの備えは「やらないこと」ではない

最後に、SNS発信のリスクへの向き合い方です。
炎上を恐れて発信しない選択は、確かに短期的にはリスクを避けられます。
しかし長期的には、「経営者の顔が見えない会社」というブランドが固定化されてしまうリスクの方が大きい、と私は考えています。

備えるべきは「発信を止めること」ではなく「発信のルールを決めること」です。
具体的には次のような備えが現実的です。

  • 政治的・宗教的なテーマには触れない、と最初に決めておく
  • 投稿前に一晩寝かせる仕組みを作る
  • 社内の広報担当と週1で発信内容を共有する
  • 万一の炎上に備えて、対応フローを文書化しておく

こうした備えがあれば、リスクを抑えつつ発信を続けることは十分可能です。
完璧を目指すのではなく、続けられる仕組みを整えることが、長期的な信頼につながります。

まとめ

建設・設備業界の経営者がSNS発信に消極的だった時代は、確実に終わりに近づいています。
業界全体の若手不足、企業のSNS活用が標準装備になりつつある潮流、そして「経営者の顔」を求める読み手側の変化が、その背景にあります。

X(旧Twitter)、LinkedIn、Bluesky、Facebook、Instagram。
それぞれのプラットフォームには異なる特徴があり、選び方に正解はありません。
大切なのは、自社の読み手を想像し、続けられるスタイルで小さく始めてみることです。

太平エンジニアリングの後藤悟志氏のように、老舗の現役経営者が新興SNSにアカウントを構える時代になりました。
業界の変化は、すでに静かに、しかし確実に始まっています。
発信を迷っている経営者の方は、まず「誰に届けたいか」を一人、頭に思い浮かべるところから始めてみてはいかがでしょうか。

最終更新日 2026年6月18日 by weetso